循環器内科

慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症

慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症とは

生命を維持するために、人は「呼吸」をして「大気中の酸素」を肺から体の中に取り込む必要があります。しかし、「呼吸」するだけでは体の中に酸素は取り込めません。「肺から取り込んだ酸素」を、心臓に一度戻して、さらに全身に送る必要があります。

心臓から肺に血液を送るための血管を「肺動脈」といいます。この肺動脈に血栓ができてそれが肺動脈内でつまる(塞栓)ことで、肺動脈の圧力(血圧)が異常に上昇するのが「慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)」です。

慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症について

肺動脈の圧力が上昇する理由は、血栓が、肺動脈の太い血管、さらには細い血管につまり、血管が異常に狭くなったり、完全に閉塞してしまうために、血液の流れが悪くなるからです。

必要な酸素を体に送るためには、心臓から出る血液の量を一定以上に保つ必要があります。血栓で狭くなった血管に無理に血液を流すように心臓が努力するために、肺動脈の圧力(血圧)が上昇します。適切なタイミングで治療が受けられないと、心臓にかかる負担が影響して心不全をおこし、命に関わる場合もある病気です。

しかし、何故このような病気が起こるのかは解明されていません。この病気の原因解明が必要であり、有効な治療法の研究開発のため、「慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)」は「難治性呼吸器疾患(指定難病)」に認定されています。

この病気かどうかを判断するためには、心臓カテーテル検査で肺動脈が上昇していることを確認する必要があります。心臓カテーテル検査は一般的に入院して受ける必要がある検査です。また、他の肺高血圧症と区別するために、血栓が肺動脈内に塞栓していることを、いろいろな画像検査(肺血流シンチグラム、胸部造影CT、肺動脈造影、MRIなど)で確認する必要があります。

慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症はどんな症状?

  • 息苦しさ
  • 下肢浮腫

慢性血栓塞栓性肺高血圧症の初期の自覚症状とは?

自覚症状として「慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)」だけに特別なものはありません。

この病気は肺の血管に異常が生じるため、心臓に多大な負担がかかり、結果として「全身への酸素供給がうまくいかなくなる病気」です。

初期は、安静時の自覚症状はありません。しかし、体を動かす時に、ヒトはより多くの酸素が必要になります。この酸素の供給が十分にできなくなるのが、「慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)」であり、病気がある程度進行すると、それによる症状が出現します。

病状がすすむとどうなる?

体を動かす時に息苦しく感じる、すぐに疲れるなどの症状が現れます。病気が進むと、「心臓の機能がより低下」するために、足がむくむ、少し体を動かしただけでも息苦しいなどの症状が出現します。めまいや失神などの症状を認める場合もあります。

慢性的な酸素不足になり心不全症状を来たすと、体重が増える(体の中に水分が貯留する)、足がむくむなどがみられます。足の深部静脈血栓症を合併している患者さまでは、足が腫れたりとか、痛むなどの症状が出現する場合もあります。

慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症の治療方

抗凝固療法(血をサラサラにする治療)

「慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)」では、血栓が病気の原因であるため、血栓、塞栓の範囲がさらに広がることを防ぐために、抗凝固薬(ワルファリンなど)を服用する必要があります。手術やカテーテル治療などの治療を受けた場合や、慢性の安定期で症状に大きな変化がない場合でも、さらなる血栓の予防のために服用を続ける必要があります。

肺血管拡張薬

血栓で狭窄や閉塞している肺動脈を拡張させて、肺動脈の圧を下げる効果があり、症状などの改善効果が期待できます。血栓を根本的に取り除く治療ではないため、手術やカテーテル治療などと組み合わせて用いられる場合や、手術やカテーテル治療が難しい場合に考慮されます。

  • 可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬である「リオシグアト」
  • プロスタサイクリン受容体(IP受容体)作動薬である「セレキシパグ」

外科的治療

「慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)」は血栓が根本的な病気の原因であるため、それを手術で取り除くことで病気を根本的に改善させることが期待できます。手術は、全身麻酔で人工心肺の補助下に肺動脈内の血栓を内膜ごと取り除く形で行われ、肺動脈血栓内膜摘除術と呼ばれます。肺動脈内の血栓ができている部位が太めの肺動脈で、手術的にその血栓を摘除可能な場合には、肺動脈血栓内膜摘除術が推奨されています。

カテーテル(バルーン)で肺動脈拡張する治療

手術が可能な部位に血栓が無い場合には、カテーテル治療の対象となります。カテーテル治療では、バルーン(風船)で血栓により狭くなった肺動脈を拡張させることで、肺動脈の閉塞や狭窄を改善させます。国内の複数の専門施設で行われており良好な成績が得られています。筑波大学附属病院循環器内科でも施設認定を受けており、必要に応じ大学病院へ紹介いたします。

筑波大学附属病院 講師 佐藤希美先生より提供

在宅酸素療法

酸素不足に対して適応があります。

利尿薬

慢性肺高血圧症が進行し心不全症状がある患者さまに適応があります。